東京地方裁判所 昭和47年(ワ)7797号 判決 1974年3月28日
昭和四七年(ワ)第三〇一四号事件
原告
奥山則男
外一名
右原告ら訴訟代理人
大木一幸
外二名
昭和四七年(ワ)第三一九七号事件
原告
丸尾正信
右訴訟代理人
増田浩干
昭和四七年(ワ)第七七九七号事件
原告
山本積盛
外一八名
右原告ら訴訟代理人
増田浩干
外一名
右原告一九名補助参加人
浦和ふさ
外四名
右補助参加人ら訴訟代理人
泉芳政
外一名
右各事件被告
武蔵野信用金庫
右代表者
杉之尾幸平
右訴訟代理人
窪田一夫
外三名
主文
昭和四七年(ワ)第三〇一四号、第七七九七号、第三一九七号(本位的請求)事件
1 被告の昭和四六年一一月一五日の総代会における安藤善平、渡辺清道、奥田基一郎、須藤宗一、小倉佐平太、小林正、安藤慶三郎を各理事に選任する旨の決議不存在確認の訴を却下する。
2 被告の昭和四七年一月一七日の総代会における安藤善平、渡辺清道、奥田基一郎、須藤宗一、小倉佐平太、小林正、安藤慶三郎を各理事に選任する旨の決議不存在確認請求を棄却する。
3 被告の昭和四七年五月二七日の総代会における杉之尾幸平を理事に選任する旨の決議不存在確認請求を棄却する。
昭和四七年(ワ)第三一九七号事件(予備的請求)
4 被告の昭和四七年一月一七日の総代会における安藤善平、渡辺清道、奥田基一郎、須藤宗一、小倉佐平太、小林正、安藤慶三郎を各理事に選任する旨の決議取消請求を棄却する。
5 訴訟費用は原告らと被告との間に生じた部分は原告らの、参加によりて生じた部分は補助参加人らの各負担とする。
事実
第一 双方の申立
一 原告らの請求の趣旨
(昭和四七年(ワ)第三〇一四号、第七七九七号事件、第三一九七号(本位的請求))
1 被告の昭和四六年一一月一五日および昭和四七年一月一七日の各総代会における安藤善平、渡辺清道、奥田基一郎、須藤宗一、小倉佐平太、小林正、安藤慶三郎を各理事に選任する旨の各決議はいずれも存在しないことを確認する。
2 被告の昭和四七年五月二七日の総代会における杉之尾幸平を理事に選任する旨の決議は存在しないことを確認する。
(昭和四七年(ワ)第三一九七号事件(予備的請求))
3 前記1記載の昭和四七年一月一七日の総代会における決議を取消す。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告の請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求はいずれも棄却する。
2 訴訟費用はいずれも原告らの負担とする。
第二 双方の主張
一 原告らの請求原因
(昭和四七年(ワ)第三〇一四号、第七七九七号、第三一九七号(本位的請求))
(一) 被告は大正一二年九月二九日設立され、会員三、六〇〇名を有する信用金庫である。原告らはいずれも被告の会員である。
(二) 被告は昭和四六年一一月一五日の総代会において理事として安藤善平、渡辺清道、奥田基一郎、須藤宗一、小倉佐平太、小林正、安藤慶三郎の七名を選任する旨の決議(以下第一次決議という。)をした。
しかるに、右決議は、左記のとおり定款に違反しており、存在しないものである。
1 被告はその定款により理事の選任方法を次のとおり定めている。
(イ) 理事は総会において選任される(一七条二項)。
(ロ) 金庫には総会に代るべき総代会を設ける(二四条)。
(ハ) 総代の定数は八〇名とする(二五条)。
(ニ) 総代選任のため、理事長は理事会の議決により会員のうちから各選任区域ごとに三名以上のせんこう委員を委嘱する(二七条)。
(ホ) せんこう委員は、総代候補者を選考しその氏名を理事長に報告する(二八条一項)。
(ヘ) 理事長は報告のあつた総代候補者の氏名を各選任区域の会員に通知しなければならない(同条二項)。
ただし右(ヘ)記載の通知については定款付則四項に、次の(ト)記載のとおり読替規定がおかれている。
(ト) 当分の間、二八条二項の規定中「当該選任区域の会員に通知しなければならない」を「掲示場に掲示し、かつ掲示場に掲示してある旨の公示を六条に規定する新聞紙(東京都において発行する日本経済新聞)に掲載しなければならない。掲示の期間は一週間を下らないものとする」……に読みかえることができる。
(チ) 会員は総代候補者について異議があれば、通知または公告のあつた日から二週間以内に当該候補者の氏名を金庫に申し出ることができる(二八条三項)。
(リ) 異議の申出がなく、または異議の申出が所定の数に充たないときは、理事長は総代候補者を総代に委嘱しその氏名を掲示場に掲示する(二九条)。
2 被告は同年九月二二日理事会において一五名の総代候補者のせんこう委員を選任、委嘱し、同せんこう委員らは同年一〇月五日せんこう委員会を開催して八〇名の総代候補者を選任し、翌六日右八〇名の氏名を当時の理事長安藤善平に報告した。
ところが右理事長は前記(ヘ)(ト)の手続に従うべきであるのに、右総代候補者の氏名を掲示場に掲示したのみで、これを東京都において発行する日本経済新聞に掲載することなく、総代候補者を総代に委嘱し、右総代により第一次決議がなされた。
3 従つて、第一次決議は、その構成員である総代の選任手続につき会員に対し総代候補者の氏名を知らされないままで委嘱したため、会員に定款二八条三項所定の総代候補者に対する異議申立の機会を与えないで、右総代候補者を総代に委嘱した瑕疵がある。よつて、昭和四六年一一月一五日の第一次決議は右資格のない総代により構成された総代会におけるものであるからその瑕疵の重要性からみて存在しないものというべきである。
(三) 安藤理事長は一部会員より前記手続の違法を指摘されたため、同年一二月七日前記一五名のせんこう委員を再度招集し、右せんこう委員らにおいて同日付をもつて、前記同年一〇月五日に選任された総代候補者と同一人を新たに選考したこととし、翌八日各店舗の掲示場および都内において発行する日本経済新聞紙にその旨を掲載し、同年一二月二〇日右総代候補者を総代に委嘱した。ついで同理事長は昭和四七年一月五日の臨時理事会における総代会招集の決議に基づき同年一月一七日総代会を開催し、被告は同総代会において前記第一次決議におけると同様理事七名を選任する旨の決議(以下第二次決議という。)をした。
しかるに右決議は次の瑕疵があり、これらからみて存在しないものと評価すべきである。
1(1) 右総代会を構成した総代は昭和四六年九月二二日に選任されたせんこう委員によつて選考されたものである。
(2) しかしながら、右せんこう委員は同年一〇月五日総代候補者八〇名を選考し、その氏名を理事長に報告したことにより任務を終了し、同日その資格を喪失している。従つて、第二次の右総代会決議は、無資格のせんこう委員らによつて選考された総代によりなされたものである。
2 せんこう委員による総代候補者の選考は各区ごとに選考しなければならないのに第二次の右総代候補者の選考は全区一括してなされた。
(1) 旧定款ではせんこう委員は被告の地区全体から総代を選任する旨規定されていたが、新定款では被告の地区を五区に分け各区ごとにせんこう委員をおき、せんこう委員は当該区ごとに総代候補者を選考すべきものと変更された。
(2) これは各区の総代は各区において定め、もつて会員の意に添つた金庫の運営がなされることが本来の姿であるとの趣旨によるもので当該規定は効力規定と解すべきものである。
(3) ところが本件における渡辺清道ら一五名のせんこう委員は各区ごとの選考をすることなく全員で全区の総代候補者を一括して選考した。従つて、右総代候補者の選考はその方法が定款に違反するものであるから無効であり、右選考を前提とする右総代の委嘱、選任も無効である。
3 総代はせんこう委員の選考した候補者のなかから委嘱されなければならないが、総代八〇名のうち角田春吉、金安豊治、本橋喜一郎の三名はせんこう委員による選考を受けないで委嘱されているから適法有効に総代たる資格を取得していないものである。従つて第二次決議は、総代である資格を有しない右三名が加わつてなされたものである。
4 被告のなした総代候補者に関する昭和四六年一二月八日付日本経済新聞における公告の内容は定款に違反し不充分なものである。
すなわち、右公告の内容は「昭和四六年一二月七日総代詮衡委員会において、左記の通り総代候補者が選任され、その報告を受領致しましたので、総代候補者に関する公告は、定款六条二九条及び総代選任規定により公告します」というにとどまるが、定款二八条、付則四項後段によると総代候補者に関する公告は、右公告の外に「一週間を下らない期間総代候補者の氏名を掲示場に掲示してある」旨の掲載をも要請されているから、この掲示場所と掲示期間を特定して公示すべきである。従つて右公告をもつてしては定款二八条による公告をなしたことにはならないから、右公示によつて選任された総代は総代としての資格がない。
5(1) 被告は、昭和四六年一二月八日付をもつて掲示した総代候補者は同月二二日総代に決定したとしている。
(2) しかし、右決定日は、定款によると右公告日から二週間経過後とすべきであるので、同年一二月二三日とすべきである。従つて被告の右処置は定款に違反しているものである。
6 右総代会の招集決定をなした昭和四七年一月五日の臨時理事会は無資格の理事により構成されたものであり、また、右総代会の招集手続は無資格の理事長によつてなされたものである。すなわち、右理事会を構成した者のうち、渡辺清道、小倉佐平太、小林正、安藤慶三郎の四名は、昭和四六年一一月一五日の第一次総代会決議において選任されたものであり、また、理事長安藤善平は右理事会によつて選任されたものであるが、右第一次の総代会決議は、前記(二)記載のとおり不存在というべきであるから、同人らは理事および理事長としての資格のないものである。従つて、右総代会のための適法、有効な招集手続は存在しないというべきである。
7 前記昭和四六年一二月二〇日付の総代委嘱に際し、石田粧春、迫田実敏の両名は、右委嘱を拒否し、その旨を安藤理事長に通知した。従つて、昭和四七年一月一七日の第二次総代会は定款に定める総代の定数八〇名を充足しないことになるので、右総代会は成立しえないものである。
8 被告の定款二五条一項によれば新総代の選任にあたり定数は八〇名全員の就任がないかぎり商法二五八条の理論から退任の旧総代はなお全員その権利義務を有すると解すべきである。しかるに、被告は昭和四七年一月一七日に行われた総代会に際して、前記のように二名の就任拒否があり定員全員の就任がなかつたのであるから、退任の旧総代にもその招集通知をなすべきであるのに右通知をしなかつた。従つて右総代会の招集手続には重大な瑕疵がある。
(四) 被告は昭和四七年五月二七日の総代会において杉之尾幸平を理事に選任する旨の決議(第三次決議という。)をした。しかし右総代会は前記昭和四六年一一月一五日および昭和四七年一月一七日における第一、第二次決議に基づき選任された理事により構成された理事会の招集決定により招集されたものであり、また、第二次決議と同じように総代資格のない総代により構成されたものであるから、右第三次決議も不存在といわざるをえない。
二 予備的請求原因
(昭和四七年(ワ)第三一九七号事件)
仮に前記第二次決議が存在するとしても、同決議には前記一(三)1、4、7各記載の手続上の瑕疵があり、右瑕疵は決議取消の事由となるから右決議の取消を求める。
三 被告の原告らの請求原因に対する答弁
請求原因(一)の事実は認める。
同(二)の事実は、冒頭の事実中、その主張の決議があつたこと、および1ならびに2記載の事実は認めるが、その主張は争う。
同(三)の冒頭の事実の中、せんこう委員が昭和四六年一〇月五日に選任された総代候補者と同一人を新たに選考したこと、理事長が同年一二月二〇日に総代候補者を総代に委嘱したことは否認し、その余は認める。同項1(1)の事実は認める。同(2)の事実は争う。同項2の事実はその中(1)の事実は認め、その余は否認する。同項3の事実は否認する。同項4の事実は、その主張の内容の公告をしたことは認め、その余は争う。同項5の事実はその中(1)の事実は認め、その余は争う。同項6ならびに7の事実は否認する。同項8の事実中退任の旧総代に招集通知をしなかつたことを認め、その余は否認する。
同(四)の事実はその中その主張の決議があつたことは認めその余は争う。
予備的請求原因事実は、前記本位的請求原因事実に対する認否と同様である。
四 被告の主張
(一) 第一次決議における日本経済新聞への公告失念の瑕疵について
被告の総代選任について定款により要求される総代候補者の公示方法のうち日本経済新聞への公告は、掲示場における掲示に比較してそれほど重要な意義を有するものではなく、実質的には掲示を補助する程度のものにすぎない。すなわち金庫は株式会社とは異なり組合的な性格を有するものであること、掲示は少数派の会員にとつてその異議権を行使するか否かを決める唯一の手がかりであるのに対し、公告はその異議権を行使する期間に関連するにすぎないものであることから明らかである。
右公告が重要なものとしても第一次決議における右公告の失念は、第二次決議における総代候補者の公示として、昭和四六年一二月八日さきに委嘱を受けていたせんこう委員によつて同年一〇月五日選考された総代候補者と同一人(但しうち三名は入替あり)を改めて選考し、その旨公告した際、会員のうちから異議を申出た者はいなかつたから、仮に、前者の公告がなされていたとしても、原告らの属する総代選任区域の会員のうち定款二九条・三〇条に定める三分の一に当たる異議の申出がなされたものとは考えられず、右公告の欠缺は総代の確定につき何らの影響を及ぼすものではない。従つて、昭和四六年一一月一五日開催の総代会はその資格を有効に取得した総代により構成されたものであるから、そこでなされた第一次決議は有効に成立しているものというべきである。
(二) 第二次決議におけるせんこう委員の資格について
せんこう委員は総代候補者を選考した後においても、その選考の必要があるかぎり有効にその資格を有しているものである。
すなわち定款二八条一項によれば総代せんこう委員は総代選考の必要が生じたときは、当該選任区域の総代定数に相当する員数の総代候補者を選考しなければならない旨規定していること、またせんこう委員につき任期の定めがないけれども総代の任期が三年であり、三か年ごとに新せんこう委員を委嘱していること、ならびに右のせんこう委員はその任務との関係からみて委員として委嘱を受ければ、総代選考の必要性が消滅しない以上、委嘱を受けた日から三ケ年間は継続してその資格を有するものと解すべきである。従つて、昭和四六年九月二二日に委嘱を受けたせんこう委員は、同年一〇月六日選考結果の報告をしたからといつて任務終了によりその資格を喪失するわけではなく、同年一二月七日当時もなおその資格を有していたものである。同日選考された総代候補者は資格を有するせんこう委員によつて選考されたものである。
(三) 第二次決議の総代候補者の選考方法について
被告が昭和四六年一二月七日になしたやり直し総代候補者の選考方法は各地区のせんこう委員が、各地区の総代候補者を選考したものである。
ただ、形式上は地区ごとの分科会に別れての選考手続はしていない。しかし、右選考は同年一〇月五日なされた選考ならびにその後三名についてなされた追加選考によつて選ばれた総代候補者を再度改めて選考しなおしたものであり、右二回の選考にあつては各地区ごとの選考行為が行なわれていたのであるから、右同年一二月七日の選考方法も実質的には各地区ごとにそれぞれ選考がなされたというべきである。
なお、定款二八条、二九条、三〇条の規定からすれば各地区のせんこう委員が各地区の総代候補者を選考してもよく、また全地区のせんこう委員が全地区の総代候補者を選任してもよいのであるから原告らの主張は失当である。
(四) 第二次決議における総代角田春吉、金安豊治、本橋喜一郎の選考について
被告においては昭和四六年一〇月五日にせんこう委員により総代候補者を選考したが、右委員らは右選考の際、将来予想される補欠者についてもあらかじめ推せんしておいて、欠員が生じた場合に各区の推せん名簿の記載順に従つて繰り上げ、これを順次総代候補者となす旨決定した。右選考後三名が総代候補者を辞退したので原告ら主張の三名が前記繰り上げの決定に従つて総代候補者となつた。しかし、同委員らは、右措置に対する手続上の疑ぎより生ずる紛争を回避するため委員の持ちまわり決議をなし右選考のやり直しをしたが、その際、右三名もその選考の対象になつたものである。そして右三名も同年一二月七日の選考により選ばれて、他の者と同様総代となつたものである。
(五) 第二次決議の昭和四六年一二月八日付の日本経済新聞における公告について
被告の定款付則四項は公告につき「……かつ掲示場に掲示してある旨を第六条に定める日本経済新聞に掲載しなければならない。掲示の期間は、一週間を下らないものとする。」と規定している。右定款の規定によれば、要求されている期間は、掲示についてのみであつて、公告掲載の内容としては期間の掲載を要求していない。従つて本件公告はその内容に期間の掲載がないからといつて定款の要請を充足していないとはいえず、その要請に適つたものである。仮に公告には掲示期間を明記しなければならないとしても、本件公告は総代候補者全員の氏名をも明記されていたから、右期間の明記がなかつたとしても会員の異議権を侵害したことにはならず同項の立法趣旨に反するものではない。
(六) 第二次決議の総代決定の日について
総代決定の日は定款付則四項、定款二八条三項によれば公告のあつた日から二週間とされているところ、本件では掲示のあつた日が昭和四六年一二月八日でその二週間の満了日は同月二一日であるから、総代決定の日を同月二二日とすることは何ら定款に違反するものではない。
(七) 第二次決議の昭和四七年一月五日の理事会における総代会招集決定の適法性について
被告は前記のとおり手続やり直し後、昭和四六年一二月二九日、役員改選を議案とする臨時総代会招集についての理事会を開催するため、昭和四六年一一月一五日の総代会における理事改選前の従前の理事であつた安藤善平、荒井隆三郎、須藤宗一、奥田基一郎、藤田松治、田口勤に宛て理事会招集の通知をなし、昭和四七年一月五日理事会を開催したところ、全理事のうちその過半数にあたる四名の理事が出席したので(信用金庫法三九条、商法二六〇条の二)あるから、右理事会には何ら瑕疵はなく、そこにおける本総代会招集決定は有効に存在しているものである。
(八) 総代の定数について
被告の定款においては八〇名の総代をもつて総代会の成立要件とはしていない。すなわち総代の定数につき定款二五条一項および総代選任区域および各選任区域ごとの総代の定数に関する規程六条を総合すれば、総代の定数は一部修正されており四〇名以上八〇名以内ということになる。また定款によれば新総代選出時においても常に八〇名の総代を選任することを要請していない。たとえば定款三〇条一項但書によるとせんこう委員により選考された総代候補者に対して当該選任区域の会員数の三分の一以上の者から異議の申出があり、当該候補者が総代になれない場合でもそのような候補者の数がその選任区域の総代定数の二分の一に満たないときはあらためて選考を行わないことができるとされている。
せんこう委員から総代候補者に選ばれた石田、迫田は総代候補者就任につき黙示の承諾をしている。すなわち(1)被告は昭和四六年一二月下旬、右両名に対し総代受諾の内意を文書にて確めたところ、辞任するならば相当の期間内にその旨の意思表示をすべきであるのにその後二〇日有余の間その旨の意思表示はなかつた。(2)右石田は昭和四七年一月上旬ごろ、理事長に対し「このたび総代に選出して頂き有難うございました。今後とも宣敷お願い致します。」と年始のあいさつをした。(3)右石田は昭和四七年一月一七日開催された臨時総代会に出席し、右席上本日の臨時総代会には、右迫田は病欠している旨を述べている等の事実からして右両名は黙示の承諾をしているものである。
仮に、右両名が総代就任を拒否したとしても、右石田はその後前記臨時総代会の資格審査の席上、右就任拒否の意思表示を右迫田のそれをも含めて撤回しているのであるから、右両名は総代就任を拒否してはいない。
(九) 旧総代に対する通知について
定款二五条三項は同二〇条を準用し、同二〇条は信用金庫法三九条、商法二五八条一項を準用しているものであるが、商法二五八条一項は会社の機関に一時欠員を生じ、その活動をなしえない場合に退任者を加えることによつて、その最低員数を確保し、その活動を可能ならしめようとするものである。しかるに本件においては、仮に原告主張のように八〇名中二名の者が総代就任を拒否しているとしても、前記のように総代会は有効に成立するのであるから、前記商法ならびに定款の各規定は準用されないものである。従つて、本総代会に旧総代を参加させる必要はないから、それらに通知がないことをもつて第二次決議が無効となるものではない。
第三 証拠<略>
理由
一原告らの請求原因(一)記載の事実は当事者間に争いがない。
二(第一次決議の不存在確認を求める訴に対する判断)
(一) 原告らの請求原因(二)記載の事実のうち、被告金庫の総代会において、その主張のような理事選任の第一次決議のなされたこと、被告金庫の定款および附則に原告主張のような規定の存すること、ところが、第一次決議には、同請求原因(二)の2に記載どおり、せんこう委員によつて選考された総代候補者を右定款二八条二項および附則四項所定の手続に従つて東京都において発行する日本経済新聞に掲載すべきであるのを失念した、いわゆる総代選任手続上に瑕疵があつたことは、いずれも当事者間に争いがない。
ところで、本訴の請求の趣旨によると、原告は右瑕疵を理由として第一次決議の不存在確認を求めているが、その請求趣旨の措辞は帰するところ、右瑕疵が信用金庫法四九条、五〇条によつて準用される商法二五二条所定の無効事由に匹敵する手続上の瑕疵にあたるから第一次決議の無効確認を求めるものと解すべきところ、後記三の(一)掲記の各証拠によると、被告金庫は第一次決議をなした後に右の瑕疵に気付き、これを改める方法として、第一次決議とは別個に、総代選任の手続を総代候補者の選任手続の段階にまで遡つてやり直したうえで新たに第二次決議をし、第二次決議によつて選任された理事を被告金庫の理事とし、この理事によつて構成された理事会において選任された代表理事を被告金庫の代表理事と認めて、信用金庫登記簿にその旨の登記をし、更に、監督官庁に対してもその旨の報告をなしたことを認めることができるから、現段階においては第一次決議によつて選任された理事を被告金庫の業務執行より排除する必要はなく、したがつて、第一次決議が効力を有しないことの対世的確定を求める利益はもはや存在しないといわざるをえない。
してみると、原告らの第一次決議の不存在確認を求める訴は訴の利益がないといわざるをえないので、これを却下するのが相当である。
三(第二次決議の不存在確認請求に対する判断)
そこで、次に、第二次決議にこれを無効と評価すべき手続上の瑕疵が存するか否かにつき検討する。
(一) 原告らの請求原因(三)の冒頭記載の事実(但し、せんこう委員が昭和四六年一〇月五日に選任された総代候補者と同一人を新たに選考したこと、理事長が同年一二月二〇日に総代候補者に委嘱したことを除く)は当事者間に争いがない。
そして、右第二次決議のなされるに至つた事情として、<証拠>によれば次の事実を認めることができる。
(1) 被告金庫においては定款により総会に代るべき総代会を設け(二四条)、総代の定数を八〇名とし(二五条)、総代選任のため、理事長は理事会の決議により会員のうちから各選任区域ごとに三名以上のせんこう委員を委嘱する(二七条)旨定め、更に、被告金庫の総代選任区域および各選任区域ごとの総代数の定数等に関する規定二条において総代の選任区域は五区と定めていること、
(2) ところで、被告金庫は昭和四六年八月二一日の定例理事会において各地区のせんこう委員の数を三名とし、合計一五名とすることに決定し、右せんこう委員の委嘱につき公平をきするため他の金庫の例にならつて各区の被告金庫の店舗長に推せん方を依頼し、同年九月二一日、二二回の定例理事会において、右店舗長から推せんを受けたものをせんこう委員に委嘱する旨の決定したうえで、右委嘱を受けたせんこう委員の氏名を掲示場に掲示したこと、右せんこう委員は同年九月二七日総代候補者の選考につき協議したが、その結果せんこう委員らは各区の店舗長に対し総代候補者として総代定数よりおよそ三割がた上積みした員数の推せん方を依頼し、次で、同年一〇月五日総代候補者の選考のため委員会を開催したが、その席上、各せんこう委員は選任区域ごとに分科会に別れたのち、前記各店舗長作成の推せん名簿により総代候補者を選考したこと、そして、せんこう委員は翌六日総代候補者八〇名の氏名を理事長に報告し、被告金庫は右選考した旨および右八〇名の氏名を記載した書面を各店舗の掲示場に掲示したこと、
(3) ところが、同月一五日ごろ右総代候補者八〇名のうち町田豊次郎、高橋富夫、安藤鉄之助の三名が被告金庫に対し総代候補者を辞退する旨の意思表示をしたので被告金庫は、その旨せんこう委員に連絡したこと、右連絡を受けてせんこう委員は新たに角田春吉、金安豊治、本橋喜一郎の三名を書面持ち廻りの決議方法で選考したうえ、その旨を理事長に報告したこと、理事長は総代候補者一部変更と表示して辞退者三名の氏名および新総代候補者三名の氏名を記載した書面を各店舗の掲示場に掲示したこと、そこで被告金庫は昭和四六年一一月一五日役員改選を議案とする臨時総代会を開催し、第一次決議をなすに至つたこと、
(4) ところが、同年一二月初めころ被告金庫は、昭和四四年一月一日改正施行された定款二八条二項付則四項により、総代候補者の氏名を右掲示場に掲示してある旨の公告を東京都で発行している日本経済新聞に掲載すべきであるのにこの手続を失念したことに気付いたこと、そこで被告金庫は手続を厳格にしておくことにより後日の紛争を回避しようとの考慮から総代候補者選考および役員改選手続をやり直すことに決定したこと、
(5) そして被告金庫は、従前のせんこう委員については完全な総代候補者を選出するまではその資格があるとの解釈のもとにせんこう委員は従前のままとして、同年一二月七日やり直しせんこう委員会を開催し、前記三名入替え後の先の総代候補者と同一の人物を改めて選考したこと、その選考方法は、先に選考した者と同一の総代候補者を選出するので、あらためて分科会を設けて各地区のせんこう委員が各地区の候補者を選出する方法による手続を省略したこと、せんこう委員は右選出後理事長にその旨を報告し、理事長は翌八日総代候補者の氏名を被告金庫の各店舗の掲示場に掲示し、かつ東京都で発行している日本経済新聞朝刊にその候補者全員の氏名を公告したこと、そして、同月二〇日ごろ理事長は各総代候補者に対し総代委嘱の通知を文書で発するとともに、同月二二日右日本経済新聞朝刊に総代確定の公告をしたこと、しかし、右総代候補者に対し定款所定の異議を申出る者は一人もいなかつたこと、
(6) そこで被告金庫は同年一二月下旬に、役員改選を議案とする総代会開催について審議するため、臨時理事会の招集通知を第一次決議前に理事であつた安藤善平、荒井隆三郎、須藤宗一、奥田基一郎、藤田松治、田口勤宛に各発送し、昭和四七年一月五日臨時理事会を開催したところ、右藤田、田口の二名を除くその余の四名が出席し、理事会開催の要件を充足した(信用金庫法三九条、商法二六〇条の二)ので、右理事会においてやり直しの第二次総代会の招集をなす旨の決議をしたこと、被告金庫は同年一月一七日総代会を開催し、右総代会において前記第一次決議におけると同一の理事七名を選任したこと、
右認定に反する証人荒井隆三郎、原告本人杉浦公信の供述部分は前掲各証拠にてらしたやすく信用できず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
(二) 次いで原告ら主張の第二次決議の各瑕疵について順次検討する。
1(せんこう委員の資格についての瑕疵に対する判断)
第二次総代会を構成した総代は資格のないせんこう委員によつて選考されたものであるとの主張については、原告らの請求原因(三)の1の(1)記載の事実は当事者に争いがないが前掲甲第二号証および証人藤原孝太の証言によればせんこう委員はせんこう委員として委嘱を受けてから、三年間は当該期における総代の選考の必要が消滅しないかぎりせんこう委員の資格を失わないものと解され、原告ら主張のようにせんこう委員は選考結果を報告することによりその任務が終了しその資格を喪失するとは解せられないところ、本件においては前記(一)認定のように昭和四六年九月二二日定例理事会において委嘱を受けたせんこう委員は、同年一〇月五日総代候補者を選考したが、その総代選任手続に瑕疵があり、そのために改めて総代を選任しなおす必要があつたので、昭和四六年一二月七日に改めて総代候補者を選考したものであるから、右選考行為はその資格のあるせんこう委員によつて有効になされたものであるというべきである。
従つてこの点の原告らの主張は理由がない。
2(せんこう委員の選考方法の瑕疵に対する判断)
本件選考はせんこう委員が各区ごとに総代候補者を選考していないから無効であるとの主張については原告らの請求原因(三)の2の(1)記載の事実は当事者間に争いのないところ前記(一)認定の事実からすれば昭和四八年一二月七日の総代候補者の選考については右の選考は、第一次決議に際し日本経済新聞に掲載する公告を失念したため、右公告をつけるためのやり直し選考で、先の同年一〇月五日ならびに同月一六日頃の総代候補者の選考決議の内容を確認したにすぎないものであつて、各区ごとに分科会を設ける等の手続をしてはいないが、同年一〇月五日の選考方法は各選任区域ごとに分科会にわかれてそれぞれ選考行為をしており、同月一六日頃のそれは全せんこう委員一致で選考行為がなされているから、実質的には各選任区域ごとに選考行為がなされたといえるのであえてあらためて各区ごとに別れて選考する等の手続をしなくても、右選考方法は定款の要請に適つているというべきである。
従つて、この点の原告らの主張は理由がない。
3(総代候補者の一部に対する資格欠如についての判断)
角田春吉、金安豊治、本橋喜一郎の三名はせんこう委員による選考を経ていないとの主張については、前記(一)認定のようにせんこう委員は昭和四六年一〇月一六日頃書面による持ち廻り決議により全員一致で右三名を総代候補者に選考し、そして同年一二月七日のやり直しせんこう委員会において右三名の者は他の七七名の者と同様に選考されたものであり、せんこう方法はせんこう委員が自由に意思決定ができるかぎり、せんこう委員がいずれの方法によろうと定款の要請に反することはなく、持ち廻りによる選考も有効である。
従つてこの点の原告らの主張は理由がない。
4(日本済済新聞による公告の瑕疵に対する判断)
昭和四六年一二月八日付日本経済新聞の掲載による公告が定款に違反しているとの主張については、原告らの請求原因(三)の4記載の事実のうち原告主張どおりの新聞公告のなされたことは当事者間に争いのないところ前掲甲第二号証によれば、被告金庫の定款付則第四項に総代候補者を会員に通知する方法として掲示場に掲示するほか、掲示場に掲示してある旨の公告を日本経済新聞に掲載し、かつその掲示の期間は一週間を下らないものとする旨定められていることが認められる。右によれば新聞公告に掲示期間までも公告することは要求されておらず、また掲示場に掲示してある旨の公告については、本件公告は、全総代候補者の氏名をも掲載しており、前記定款に要求されている公告の目的を充分に達しているものであるから、定款の規定に牴触するものではない。
従つてこの点の原告らの主張は理由がない。
5(総代決定に対する瑕疵に対する判断)
被告金庫において昭和四六年一二月二二日を総代候補者が総代に決定した日であるとしたことが定款に違反しているとの主張については、原告らの請求原因(三)の5の(1)記載の事実は当事者間に争いがないが、前掲甲第二号証によれば被告金庫の定款二八条、同付則第四項には、右掲示にかかる総代候補者のうち総代となることについて異議のある者は、当該掲示のあつた日から二週間以内に被告金庫にその旨を申出ることができる旨および同定款二九条には右異議の申出をした者が当該選任区域の会員数の三分の一に達しないときは、理事長は当該総代候補者を総代に委嘱する旨規定されていることが認められるから、本件における総代候補者に対する異議申立の期間は昭和四六年一二月八日の翌日から二週間を経過した同月二二日に満了し、総代決定は翌一二月二三日にしなければならない。従つて被告金庫の総代決定は一二月二二日であるから、一日早く原告主張のとおり定款違反の瑕疵があるといわざるをえない。
6(総代会招集手続の瑕疵に対する判断)
第二次総代会の招集を決定した昭和四七年一月五日の理事会は無資格の理事により構成されたものであるとの主張については、前記(一)認定の事実によれば、右理事会は第一次決議前の理事の資格を有する者により構成されたものであることが認められるので原告ら主張のような瑕疵はない。
従つてこの点の原告らの主張は理由がない。
7(総代会開催の瑕疵に対する判断)
石田粧春、迫田実敏が総代委嘱を拒否したので定款に定める定款を充足していないから総代会は成立しえないとの主張については、石田、迫田両名が総代の委嘱を拒否したか否かについての判断はともかくとして、前掲甲第二、第四号証によれば被告金庫の定款二五条一項には総代の定数を八〇名と規定しているが、一方三〇条一項但書によると、総代候補者に対して異議のなされた場合につき、異議を受けた総代候補者の数がその選任区域の総代の定数の二分の一に満たないときは、あらためて選考を行わないことができる旨規定して例外的に総代定数が八〇名を割ることを予定しており、総代定数八〇名の前記規定は絶対的なものでなく、しかも選挙規定の合理的解釈からすると右定数は総代候補者に対し被告金庫が総代を決定し委嘱した段階で充足すれば足りると解すべきであり、その後に委嘱を受けた者が辞退した場合には補欠選挙の問題が生ずるにすぎず、その後になされた総代会が定款二五条一項に違反し成立しないと解すべき理由はない。この点についての証人鈴木時一郎の供述は採用できない。
従つてこの点の原告らの主張は理由がない。
8(総代会における旧総代への通知の瑕疵に対する判断)
旧総代に対する通知の欠缺を理由とする主張については、前記7において認定のように、たとえ石田、迫田の両名が総代就任を拒否したとしても、定款二五条一項に違反し総代会の定数を欠くものではないから、旧総代が定款二五条三項、二〇条但書によつて第二次総代会決議においてその権利義務を行使する余地はない。
従つてこの点の原告らの主張は理由がない。
(三) 以上によると、第二次決議については、前項5で認定した以外に瑕疵はなく、しかも前項5の瑕疵は単に総代候補者に対する総代の決定が定款所定の期日より、一日早くなされたというに過ぎず、これをもつて、信用金庫法四九条、五〇条によつて準用される商法二五二条所定の無効事由に匹敵すべき瑕疵であると解することはできない。従つて原告らの第二次決議の不存在確認の請求は理由がない。
四(第三次決議の不存在確認請求に対する判断)
被告が昭和四七年五月二七日の総代会において杉之尾幸平を理事に選任する旨の第三次決議をしたことは当事者間に争いがない。原告らは第三次決議につき第一次決議および第二次決議におけると同様の理由によりその不存在を主張するが、前記の二、三において認定したごとく第一次決議の瑕疵は第二次決議の瑕疵に影響を与えず、また、第二次決議の瑕疵が無効事由にあたるとは認められない。従つて右昭和四七年五月二七日の総代会決議不存在確認の請求も理由がない。
五(第二次決議の取消を求める予備的請求に対する判断)
第二次決議は、前記三の(二)の5で認定したとおり、総代会を構成する総代決定の時期につき瑕疵があるが、右瑕疵は単に一日早く決定がなされたというに過ぎず、極めて軽微であり、しかも、前記三の(一)で認定したとおり右総代の決定を受けた総代候補者に対してその後も会員からの異議の申立がなされておらず、したがつて、右瑕疵が総代資格に実質的に影響を与え、ないしは第二次決議の結果に影響を与えるものではない。してみると、原告の第二次決議の取消を求める請求は裁量により棄却するのが相当であり、本件予備的請求も理由がない。
六よつて、原告らの本件各請求のうち第一次決議の不存在確認を求める請求は訴の利益を欠くものとして、却下し、その余の原告らの各請求はその理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条本文九四条後段を適用して主文のとおり判決する。
(山口和男 水谷厚生 来本笑子)